「アザーズ」 2001年,アメリカ=スペイン=フランス

監督;アレハンドロ・アメナバール
出演;ニコール・キッドマン、フィオヌラ・フラナガン、アラキナ・マン
2004年8月20日 シネマクラブ夏祭り映画上映会 

美しく、上品なホラー。1945年イギリス、ジャージー島。信心深いグレース。彼女は古い大きな屋敷に、光アレルギーの子供達と住んでいた。しかし、新しい使用人が来てから、屋敷で不可解な出来事が起こり始める。
外国のホラーは、少し前までは"悪魔"が敵だった。日本人の私には悪魔の邪悪さがピンとこないので、恐くないし、面白くなかった。日本人は、後悔したり、恨みを持って死んだ人間が恐いのである。しかし、最近の外国ホラーも、日本人が恐がる"霊"が主流になってきたように思う。お岩さんほどではないが、寒気がする作品が増えてきた。
ネタバレにならないように書くと、感想が抽象的になるが…。観る人の先入観をうまく利用して、ミステリタッチで物語が進行する。最初から、濃い霧に包まれた真っ暗な家、鍵の束、聖書の朗読とか、何か歪んだ世界であることは匂うのだが、その異様さがどこから来るのかは隠され、謎だけが積み重なっていく。そして、引きつけるだけ引きつけて、たった1カットで、一瞬にして謎が明らかにされる。あの視点が変る瞬間は、上手いなぁと思った。
グレースが信仰心に厚いのは懺悔の気持ちからだろう。グレースが良い母親で、子供達も彼女を愛していたこと、そして光をいっぱい浴びることができたこと。これが彼女たちの本当の望みだったのだと思う。切なかったが、ちょっと救われた気持ちにもなった。

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「大いなる幻影」 1937年,フランス

監督;ジャン・ルノワール
出演;ジャン・ギャバン、ピエール・フレネー、マルセル・ダリオ
2004年8月13日 DVD・自宅ごろ寝シアター

第一次世界大戦下、フランス軍のマレシェル中尉とボワルデュー大尉はドイツ軍の捕虜になる。2人は、収容所で知り合ったローゼンタールとともに脱走計画を進める。幾度かの脱走失敗を経て、遂に脱走が困難な収容所へ送られてしまう。
戦闘シーンが一切ない戦争批判映画。収容所で懲罰房に入れられ半狂乱になりそうなマレシェルに、ドイツ兵がそっとハーモニカを手渡して慰める。ユダヤ系フランス人で、裕福な一族のローゼンタールは、家から送られてくる豊富な差し入れを快く仲間と分け合う。貴族出身のボワルデューが命を賭けて守ったのは、同族階級や国ではなく、友人だった。マレシェルら瀕死の脱走兵を助けるのはドイツ人の戦争未亡人エルザであり、マレシェルとエルザは愛し合うようになる。ルノワールは、音楽、友情、恋愛…人間だったら誰でも国境・階級・人種・貧富の差をを超えて、分かち合えるはずの"幸福"を描くことで、戦争の愚かさを訴えた。
今観ても名作だと思うが、制作された時代を考えると、テーマはさらにずっしりと重くなる。この作品の初公開は1937年。年表で確認すると、ナチスのオーストリア侵攻がはじまり、アジアでは廬溝橋事件をきっかけに日中戦争が勃発している。世界が第二次世界大戦に向かっているなかで、この作品は制作された。DVDに付いている解説を読むと、ドイツ・イタリアでは輸入禁止、フランスでも上映が中断された。終戦後に公開され高い評価を得たが、オリジナル・ネガが発見されたのは90年代末だという。
私は、タイトルが『大いなる幻影』というところに、複雑な感情を抱いてしまう。「人間なら分かちあえるはずの"幸福"」と簡単に書いたけれど、それは『大いなる幻影』だというのだから。国境や人種や階級を超えて分かり合うこと、戦争のない社会がいかに難しいか。ルノワールの理想を観ると同時に、厳しい視線を感じた。

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