『マグダレンの祈り』 2002年 イギリス=アイルランド

監督;ピーター・ミュラン
出演;ノラ=ジェーン・ヌーン、マリー=アンヌ・ダフ、ドロシー・ダフィ
2004年3月24日 早稲田松竹

1960年代のアイルランド。従兄弟にレイプされたマーガレット、孤児院で男の子にもてるバーナテッド、未婚で子供を産んだローズ。彼女たちは性的に堕落しているとされ、女子矯正施設のマグダレン修道院に送られる。しかし、内実は、強制労働とシスターによる虐待、外部との接触が一切禁止された監禁であった。
実話を基にしており(映画は誇張されていると思うが)、こうした施設が1996年まで存在したという事にまず驚いた。さらに、60年代にしてはあまりにも保守的なアイルランドの道徳観にも驚いた。例えば、マーガレットはレイプの被害者だ。しかし、「傷もの」になったことが周囲に知られ、両親は家に泥をぬった娘を修道院へ捨てた。娘より周囲の目を優先したのである。未婚の母のローズも事情は同じ。彼女たちには帰る家がない。
人間性が剥奪された過酷な状況下でもマーガレットやローズは信仰や良心を見失わないし、バーナテッドも体罰を受けようが堂々と抵抗し、生へ強い執着を持ち続ける。彼女たちの強さにも感動したが、私はむしろ耐えきれずに次第に壊れていくクリスピーナや、加害者=シスターになる道を選ぶノーナの方が印象に残った。多分、自分なら後者の方=弱い人間だと思うから。個々の人物の描き方が深い。
"告発"としては充分インパクトがある良い作品だ思う。ただ俳優のアップが多いのが気になる。キャラクターを強調したい意図は分かるけど、顔だけのカットで話を進めるって日本の安っぽいテレビドラマの作り方みたいで…。

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『ドライビング Miss デイジー』1989年 アメリカ

監督;ブルース・ベレスフォード
出演;ジェシカ・タンディ、モーガン・フリーマン
2004年3月22日 BShi録画・自宅ごろ寝シアター 

1940年代ジョージア州。デイジー(J.タンディ)はユダヤ人系の老婦人。自動車事故を起し、心配した息子が黒人の運転手ホーク(M.フリーマン)を雇う。元教師で頑固者のデイジーは息子の好意を拒否し、ホークにも冷たく当る。ドライブを重ねるうちに、デイジーはホークにうち解けていく。
2人の友情が育まれていく過程が淡々と描かれ、心温まる映画。しかし、白人と黒人、雇い主と使用人という壁を取り払って2人が対等の友人になるまでは、20年以上の月日が必要だったし、簡単ではなかった。ここに重いテーマが含まれている。アメリカではユダヤ人系のデイジーもマイノリティ。そのデイジーが黒人のホークを見下す。厄介なことに、それを自覚していない。友情を感じていても、デイジーはホークと対等に向き合おうとしない。例えば、キング牧師の夕食会に向かう車のなかで、デイジーはホークに演説を聴きたいなら付いてきてもいいと誘う。これに対して、なぜホークが怒ったのか、彼女は全然理解できない。キング牧師を支持しているのなら、使用人もついでに連れて行くのではなく、20年来の友人としてきちんと誘うべきだったのだ。ホークは運転手としては誠意をもって仕事をするが、理不尽な命令には従わない。
デイジーが人種の壁、主従関係の壁を超えるには、世間体もプライドも、自分のことも分からなくなるぐらい年老いなければならなかった。そこは悲しい。でもラストが良い。あたたかい気持ちになれた。

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「ライフ・イズ・ビューティフル」 1997年 イタリア

監督;ロベルト・ベニーニ
出演;ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ
2004年3月13日 シネマクラブ第19回上映会

ユダヤ系イタリア人のグイド。強制収容所の悲惨な現実を幼い息子に隠し通すために、これはゲームで優勝すると本物の戦車がもらえると、嘘を突き通す。強制収容所を舞台にする以上、反戦・歴史批判がないわけではないと思う。しかし、冒頭のジョズエ(息子)の回想で「童話のような話」と語るように、ベニーニは敢えてリアリティをばっさりと捨て、戦争の悲惨さより、家族愛、極限状況でも希望を持ちつづけることの大切さを徹底して描いた。
前半のグイドと妻ドーラの出会いは、ちょっと長すぎる印象もあるが、グイドのユーモア溢れる性格、家族の絆、細かい伏線が描かれており、後半を盛り上げる要素として上手く活かされていると思う。後半の強制収容所でのストーリーは、かなり無理がある。でも、それを忘れるくらい、息子を守り通す父親の姿に感動した。グイドの笑顔やユーモアは前半と全く同じだが、その意味がまるで違う。息子を守るという彼の必死の努力であり、彼が陽気になるほど切なくなる。背中に銃を突きつけられても、息子を安心させるために、おどけて歩いてみせる。自分が親だったら、あれが出来るかと本気で考えてしまった。ジョズエは強制収容所の恐怖を全く知らずに過ごし、本当にゲームに勝ったと思っている。何も知らない無邪気な笑顔に、涙が出そうになった。
『ライフ・イズ・ビューティフル』は、ベニーニの良心を感じるからギリギリ許せるが…。事実とかけ離れた戦争映画が作られることには、やっぱり抵抗がある。

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