「仕立て屋の恋」 1989年 フランス

監督;パトリス・ルコント
出演;ミシェル・ブラン、サンドリーヌ・ボネール
2005年4月?日 DVD・自宅ごろ寝シアター

嫌われ者で、孤独な仕立屋のイール。彼は向かいの家に住むアリスの生活を覗き見ることが、唯一のささやかな楽しみだった。若い女性の殺人事件が起き、刑事はイールにも疑いの目を向ける…。
ルコントは映画監督というより、映画という表現手法で詩を紡ぐ詩人だ。観客の想像力をかき立てるストーリー、美しいセリフ、映像表現の巧さ。作品は短くこぢんまりとしているが、密度が濃い。そして、何とも言えない切ない余韻がいつまでも後を曳く。"余韻"という点では、迷わずに私のNO1監督である。
サスペンスのストーリー展開のなかでイールの純粋な恋が描かれる。意外な事件の真相は、イールの恋の結末でもある。イールのアリスに対する思いは恋愛というより崇拝に近い(というより、ルコント監督作品を観ると、監督自身が女性に対して強い憧憬や崇拝の気持ちを抱いているのではないかと思う)。見るだけ。残り香を嗅ぐだけ。そして、やっとの思いでそうっと触れるだけ。ちょっと病的な恋ではあるが、アリスに何か強要するような見返りは求めない。純粋に彼女が好きで、ただ彼女を助けたいだけ。それを利用するアリスは狡い女という印象を強く受ける。でも考えてみると、アリスも別の男に対してイールのように純粋で、その男を助けたいための選択だった(間違っていたけど)。ああ切ない。イールもアリスも。
映像も洗練されている。雷が光って、窓辺でアリスの部屋の方を微動もせずに見ているイールの青白い顔が浮かび上がる。アリスがイールに部屋を覗かれていることに気付く。ちょっと不気味だけど、好きなシーンである。

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