西部戦線異状なし 1930年 アメリカ

監督;ルイス・マイルストン
出演;ルー・エアーズ,ウィリアム・ベイクウェル,ラッセル・グリーソン
2005年12月23日 DVD・自宅ごろ寝シアター

戦争映画、不朽の名作。第1次世界大戦下のドイツ。「名誉の戦場が待っている」。教師に煽動され、愛国心に駆り立てられた少年、ポールたちは志願兵になる。しかし、待っていたのは、餓え、死と隣り合わせの日々だった。原作はエリッヒ・マレア・エマルク。自らの戦争体験を基にした小説。ヒトラー政権下では焚書の対象となった。
塹壕で砲弾に震え、命令が下ると塹壕からはい出て敵へ進撃。延々と続く砲撃の音。生きるか死ぬかは、ちょっと幸運だったか、ちょっと不運だったかの差でしかない。戦死に対する非情。戦場の容赦ない描写のなかに、兵士の恐怖が70年を経てもなお、ありありと伝わってくる。"戦場の現実を見せる"ことにこだわった最初の映画であり、この方向性は、『突撃』(キューブリック)、『プラトーン』(オリバー・ストーン)、『プライベートライアン』(スピルバーグ)などへ引継がれ、その後の戦争映画にも大きな影響を与えたことが分かる。
本作品の制作は1930年だから第1次世界大戦休戦1918年から僅か12年後。公開当時は衝撃だったと思う。兵士以外は戦場を知らなかったから。ラジオは音声だけだし、テレビはないし、映像もせいぜい映画のニュースフィルムぐらいか。おそらく、この映画ではじめて人々は戦場がどんなに悲惨だったかを知ったと思う。戦場を知る者と知らない者、このギャップが映画でも重要な柱になっている。ポールの戦場での恐怖を、家族すら理解してくれない。結局、苦しみを分かち合えるのは戦場にいる兵士たちだけであり、ポールはもう戦場にしか自分の居場所がないことを知る。この深い孤独が、ラストシーンに向かっていく時。もうやりきれない。胸がはりさけそうになる。

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「家族」 1970年 日本

監督;山田洋次  出演;井川比佐志,倍賞千恵子,笠地衆
2005年12月22日 DVD・自宅ごろ寝シアター 

長崎県伊王島の若い夫婦、幼い子供2人、おじいちゃんの5人家族。炭鉱閉山で仕事がなくなるため北海道移住を決意。長崎から北海道へ。高度成長期末期の日本を縦断する家族のロードムービー。
日本の高度成長の矛盾をあますところなく描ききった作品。寅さんや清兵衛に比べたら地味だが、山田洋次の代表作であることは間違いない。1955年からはじまる高度経済成長は日本を大きく変えた。生活は豊かになった。しかし、この成長の果実を国民が同じようにに享受できたかというと、そうでもない。炭鉱という成長に取り残されたところにいて、生活のために放浪する家族もいる。旅費さえまともに工面できない。
家族は、北九州工業地帯では高度成長のシンボルのような石油化学コンビナートを通り抜け、日本の発展を誇示するような大阪万博を横目で見て、東京では明るい都会の冷たさを知り、やっと北海道へたどり着く。生きていくための旅に払った犠牲は、あまりにも大きい。救いは、若い母親の健気な明るさ、強さかな。
山田洋次は、この作品で、"場"の息づかいを非常に重視したように思う。セットは使わず(多分)、ロケーションにも全く手を加えず、同時録音である。駅、都会の食堂、万博会場、夜の満員電車…まさに現実に動いている当時のノンフィクションの風景なかに、俳優たちをポンと放り出して芝居をさせ、ドキュメンタリーのような効果を作り出した。また、監督は意図しなかったかもしれないが、時代を経て見ると、長崎から北海道までリアルな日本の風景や人々が次から次へと映しだされ、70年日本の記録映画としての面白さもあわせ持つ。
昨年『ALWAYS 三丁目の夕日』が話題になり、便乗して昭和レトロブームが巻き起こった。これも、時代を巧みに切取った映画だと思うが、VFXで風景はきれいだし、現代から見て理想化された古き良き時代である。それに比べて、『家族』は、つくりものではない力強さがある。どっちが優れた作品かは、いわずもがな。

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「追憶」 1973年 アメリカ

監督;シドニー・ポラック
出演;ロバート・レッドフォード,バーブラ・ストライサンド
2005年12月10日 シネマクラブ第38回上映会

ノンポリでハリウッド脚本家のハベル。共産党活動家のケイティ。第2次世界大戦後、互いを認めつつ一緒になった2人だが、「赤狩り」の嵐が待っていた。それは、2人に目指す生き方の違いを気付かせる。
恋愛映画としてはハイレベルだと思う。2人は愛し合っているにも関わらず、互いの主義主張を尊重して別れていく。別れる理由が、生き方の違いにある。自立した大人の恋愛である。近ごろ流行の甘すぎる純愛映画は、見習ってほしいと思うぐらい。
私はケイティのような芯のある強い女は嫌いじゃない。ストライサンド歌う「追憶」も映画を引立たせる名曲である。監督は彼女の歌唱力を買って起用したというぐらいだから。でも、やっぱり、私はストライサンドはミスキャストだったんじゃないかなーと思う。田中真紀子を思い起こさせるという個人的偏見を差し引いても…なんか違うのよ…。

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