「ストレイト・ストーリー」

監督;デヴィッド・リンチ
出演;リチャード・ファーンズワース
2005年3月?日 (DVD・自宅ごろ寝シアター)

新聞記事を元に映画化。73才のアルヴィン・ストレイトは、10年前に仲違いした兄が心臓発作で倒れたと知らせを受ける。アルヴィンは、350マイルも離れた兄が住む町まで、オンボロ小型トラクターで旅に出た。
監督の名前を見てビックリ。リンチ監督といえば、『ブルー・ベルベット』『ツイン・ピークス』『マルホランド・ドライブ』…難解ミステリー、キワモノ。そのイメージとは対極にある。優しさに溢れ、でも遊びごころある不気味なカットや黄ばんだ色彩はリンチらしい。ちょっと出来すぎてるけど、良いなぁ…この映画。辛いことも、悲しいことも、幸せも詰まっていて。
アルヴィンのセリフが良い。「足腰は弱っても、経験は積んできた」というアルヴィン。彼のセリフは淡々と語られるが、一言、一言がとても重い。戦争での避けられなかった過ち、娘のこと。辛いことをたくさん経験したからこそ、言える言葉だ。
350マイル。大体560キロぐらい。自動車なら2〜3日で行ける距離。周りの人間から見れば、アルヴィンは非合理的で、貧乏で、気の毒な老人に見える。でも、そんな人々よりずっと長く生きて、ずっと苦労してきた彼にとっては、トラクターの旅ぐらいはどうってことないのかもしれない。旅で出会う人を助けて、自分も助けられる。道を阻むものがあっても、歩みは遅くても、確実に目的地に近づいていく。アルヴィンの旅は、アルヴィンの人生と重なり合う。
兄との和解。アルヴィンにとって、唯一、人生のなかでやりのこしている事だったのだろう。それは自力でやり遂げなければ意味がない。彼とオンボロトラクター。兄は、それを見ただけで、言葉なんか交わさなくても彼の心が分かってしまう。私は、あの静かで、穏やかなラストシーンが大好きだ。
主演のリチャード・ファーンズワースの遺作。

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「猟奇的な彼女」 2001年 韓国

監督;クァク・ジェヨン
出演;チョン・ジヒョン、チャ・テヒョン
2005年3月13日 (シネマクラブ第31回上映会)

大学生のキョヌは、電車のなかで泥酔していた女の子の恋人と勘違いされ、彼女を介抱するはめに。それが"猟奇的な彼女"との出会い。言葉は乱暴、行動は過激。彼女との戦いがはじまった…。
ロマンティックなエピソードの連続、ベタなコメディセンスにお腹いっぱい、胸やけ気味…は否めないが、キャラクターがそれを払拭するぐらい魅力的だった。繊細なのに、無理して「ぶっ殺すよ」と強気な女の子。軟弱なようだけど、我が儘な彼女を理解して、彼女の深い傷を受けとめるだけの抱擁力ある男の子。
「前半戦」は、見た目可愛らしい彼女の凶暴さにポカーンとするばかりだったが、「後半戦」でその理由が明らかにされると、我が儘にしか見えなかった言動が一転して愛おしくなるし、過去を忘れられない苦しさ、それをキョヌで代償しようとする罪悪感も切なく感じる。私が監督だったら、絶対にここで"END"にする。
二人が別れた後の「延長戦」はない方が良い。感動をダメ押しのように盛上げようとするエピソードが鼻につくだけ。最後の"偶然"もちょっと陳腐なオチだなぁと思いながら観ていた。しかし、「運命は、努力した者に偶然という架け橋をかけてくれる」という印象的な言葉により、その"偶然"の陳腐さが、爽やかなハッピーエンドにすり替えられた。このセリフだけは上手いなぁと思った。
最近、韓国映画は、ハリウッド的な娯楽作品に傾いている。でも、ハリウッド映画はハリウッドに任せればいい。私は『風の丘を越えて』『おばあちゃんの家』のような韓国じゃないと作れない映画、こういう作品をもっと観たいなぁと思う。

<小ネタ 韓国人は登山好き。だと思う>
この映画で、二人が最後にデートするのが"山"である。昨年、韓国に数回ほど行く機会があった。いろいろ発見はあったが、その一つに「韓国人は登山好き」がある。私は、ソウルから地下鉄で20分ぐらいの郊外の町に滞在していたが、そこはちょっとした山の麓だった。土・日になると、登山靴、リュックを背負った家族連れが行列になって、駅からゾロゾロと歩いてくる。これにはちょっと驚いた。韓国の友人に聞いたところ、友人も「ボクも月1回ぐらいは登山に行きますよ」。日本人の感覚からすると、月1回って多いよなぁ。ソウル東大門市場でも、登山靴・ウェア、用品を扱う店が多かった。
映画を観ていて、やっぱり韓国では登山ってポピュラーな娯楽なのかも、、、と思った。

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