「飛べ!フェニックス」 1966年 アメリカ

監督;ロバート・アルドリッチ
出演;ジェームズ・スチュワート,リチャード・アッテンボロー,ハーディ・クリューガー
2005年10月?日 DVD自宅ごろ寝シアター 

輸送機が砂漠に不時着する。脱出するために、生きるために、男たちは衝突しあいながらも、一つになっていく。どうやって脱出するかは…見てください(^^)。
パニック映画は、ワンパターンでどれもこれもイマイチだなと思っていた私。すみません、間違いでした。これは面白い!。140分と長いけど、あっという間。
まず、極限下での人間同士の葛藤を、登場人物のそれぞれのキャラクターを際立たせながら描いているところがいい。私がこれまで見てきたパニック映画の人間模様は、"美しい自己犠牲"ばかり強調されてきた印象を持つ。ここでは、他人のために自分が犠牲になるという結果は同じであっても、例えば、キャプテンとしての、医者としての、軍人としてのそれぞれの任務を誠実に果たす良心に重きを置いている。そこが、変に偽善的ではなく、かえって清々しい感じ。本当はみんな生きたい。でも、プライドや善良さが皮肉にも死を招いたり、希望を見いだせない弱い人間がいたり、利己的な行為に罪悪感を持ったり。様々な人間ドラマに引きつけられる。
そして、大胆な脱出方法。現実には無理?と思うけど、そんなことどうでもよくなるくらいに意外性に富んでいる。クリューガー演じる技士の正体が明らかにされた時の意外性。さらに、彼が正体を隠していたわけではないというところで、その意外性から引き出される面白さがぐぐぐっーと何倍にもふくらんでいく。見てる方はワクワクしっぱなし。
役柄のイメージにピッタリ合った大物俳優たちがズラッと顔を揃えているのもすごい。善良なキャプテンのスチュワート、みんなをまとめていくアッテンボロー、ちょっと変わった切れる技士クリューガー。その後、数多くのパニック映画に出演するアーネスト・ボーグナイン等。
ラストシーン。私はタイトルを叫んでました(^^ゞ。

パニック映画のこと
パニック映画は70年代にそのジャンルを確立する。本作品はその先駆けといってもいいかもしれない。70年代『ポセイドン・アドベンチャー』はじめ、たくさんのパニック映画が作られたが、80-90年代、話がワンパターンで飽きられちゃったのかパタッと消える。しかし。近ごろ、パニック映画が再び盛り返している。オリジナルだけでなく、70年代のリメイクも数多い。本作品も2004年に『フライト・オブ・フェニックス』としてリメイクされた。なぜ、パニック映画がまた流行りだしたのか。私なりに考えてみる。一つは、間違いなくCG技術の発達だろう。火山、津波、爆発、沈没…実際には撮影不可能なシーンをリアルな映像で表現できるようになったこと。もう一つは、ジェットコースタームービーといわれるような、ストーリーが単純で、2時間ずっと飽きずにハラハラドキドキさせる映画が好まれるようになったことである。その傾向は、80年代後半の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』あたりからはじまったと思う。パニック、サスペンス、ホラーなどは、この傾向にぴったりのジャンルだ。近年、映画の観客数が増えているが、ヒットするのはハラハラドキドキ系映画ばかりである。自分で考えれば考えるほど、作品の深みが分かってくるような映画は、少なくなったような気がする。

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「ロイ・ビーン」 1973年 アメリカ

監督;ジョン・ヒューストン
出演;ポール・ニューマン,エヴァ・ガードナー
2005年10月?日 DVD自宅ごろ寝シアター 

19世紀末。実在した人物"殺し屋判事=ロイ・ビーン"がモデル。無法の街にやって来たロイ・ビーンは自らが判事になり、自分の正義から外れる悪いヤツらを処刑し、町を治めていく。ところが法律を振りかざすインテリ男がやってくる。
ポール・ニューマンが、自らの出演作で一番気に入っている作品らしい。何か分かるなぁ。カッコいいもん。ポール・ニューマンはもちろんだけど、ロイ・ビーンそのものも。力にものいわせる、粗野な男。だけど、女性歌手リリィに一途だったり、妻や熊を愛したり、憎めないアンチ・ヒーロー。
荒くれ者が馬に乗って駆け回る時代から、荒涼とした地にも鉄道が敷かれ、法律と民主主義が支配する時代へ。ロイは時代に取り残され、去っていくしかない悲しい男だ。絶対的な正義はない。正義の名の下の身勝手な処刑を支持するわけじゃないが、正義=法律を振りかざして人々を虐げる行為もよっぽど汚い。新しい時代の正義に虐げられている娘のために、ロイの古い正義が帰ってくる、あの格好良さったら!もうっ!。言葉はいらない。娘役のジャクリーン・ビセットも、いかにもロイの血を受け継いだ凛々しい美しさを感じさせ、とても良かった。
一つ一つのエピソードが伝説風に描かれ、それらを積み重ねていくようにして物語が展開する。そして、ラストはロイが憧れてやまなかったリリィがロイ・ビーン記念館を訪れ、本当に伝説の男になってしまっているという展開の上手さ。残虐だったり、ロマンチックだったり、コミカルだったり、格好良かったり。1つの映画のなかではあり得ないぐらい演出が豊かで、しかもセンスが良い。脚本、監督の腕の凄さを感じる。西部劇のなかではちょっと異色作か?。私は、かなりお気に入りの映画。

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「ニュー・シネマ・パラダイス」(オリジナル) 1989年 イタリア/フランス

監督;ジュゼッペ・トルナトーレ
出演;フィリップ・ノワレ,ジャック・ペラン,サルバトーレ・カシオ
2005年9月10日 シネマクラブ第38回上映会 

戦後間もないシチリア島、映画しか娯楽のない小さな村。父のいない映画好きの少年トトと子供のいない映写技師アルフレードの物語。トルナトーレ監督29才の時の作品。
私は初公開の時に観ているから10年以上ぶりに観たのが。以前とは感動するところが違った。昔はトトとアルフレード友情に涙したが、今回はそれが既に"過去である"というところに、何とも言えない感慨が湧いてきた。
トトは純粋だった。父の死の知らせが来た日も映画のポスターに見とれ(好きなシーンだ)、貧富の差なんて関係なしに女の子に恋をした。でも大人になることは、その純粋さを失うことだ。大人になりかけたトトは、将来の道が見いだせず、恋も破れ、いつまでも無邪気な幸せに浸っていられないことを傷つきながら分かってくる。故郷を捨て、映画監督として成功するが、何だか虚しい感じのオヤジになっちゃたトト。映画監督になれば、子供の頃のように無邪気に映画を楽しめないだろう。もう少年のような恋もできない。けれど、アルフレードの死をきっかけに故郷に帰ると、風景は変わっても、そこには彼を、純粋に映画に、恋に、心躍らせた少年時代に引き戻す欠片がキラキラ散らばっている。極めつけは、あの映画フィルム。二度と戻れない。でも、虚しい感じになっちゃったトトに、ほんのすこし幸せだった頃の気持ちを甦らせる。それは、「故郷へは帰ってくるな」。厳しい言葉でトトの大人への旅立ちを促したアルフレードの時間を超えた贈り物のようにも思えてくる。
"ケーキにお砂糖をたっぷりかけたような映画"と、ある映画評論家が言っていた。なぜか映画通からは厳しい評価がされる作品である。私は好きなんだけど…。懐古主義やセンチメンタリズムっていうのじゃない。失なってしまった大切なもの、それを思い出として持つことの幸福に、私は共感する。

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