「ミッドナイト・エクスプレス」 1978年 アメリカ

監督;アラン・パーカー
出演;ブラッド・デイビス、ランディ・クエイド、ジョン・ハート
2007年1月 DVD自宅ごろ寝シアター

1970年。ビリーはトルコからハシシを持ち出そうとして逮捕される。待っていたのは、不公平な裁判と、非人道的な刑務所だった。ミッドナイト・エクスプレスは、刑務所内の隠語で脱獄を意味する。実話を基にしており、トルコでは今も上映禁止らしい…。
前近代的な刑罰は、囚人の見せしめによる犯罪抑制を目的にしているから、いい加減な司法、劣悪な刑務所、囚人に対するどんな屈辱・暴力もまかり通ってしまう。前近代の遺物を前に、近代的司法のルールも、人権の訴えも、無力なところが恐い。
ビリーのやり場のない苛立ち、望みを絶たれるごとに理性を失い、だんだん壊れていく描写が、凄まじい。非人間的な環境のなかで、人間が人間じゃなくなる過程を刻々と見せつけられるよう。とくに印象に残ったのは、恋人が面会に来たシーンだ。すぐそこに彼女の乳房はあるのに、手が届かない。彼と、外を隔てる壁は、物理的にはたった数センチなのに、それが如何に高く、重くのしかかっているかを、ひしひしと感じさせる。作品データを見たら、脚色がオリヴァー・ストーンだった。そこまでやるかという極限状況の描写や、リアリティへの追求は、確かに、代表作の「プラトーン」とつながる。
ただし、アメリカ側からの一方的な視点で描かれ、後発国から麻薬を持ち出す行為は棚に上げて…という感じが、否めない。映画が事実ならば、トルコに対する抗議は当然だとしても、でも非難されるべきはトルコだけじゃないでしょと、思ってしまう。たった2キロのハシシに、なぜトルコはそこまで厳罰で臨まなくてはいけないのか、そこをもっと考える必要があるのではないかと思う。
この映画をきっかけに、アメリカとトルコは囚人交換の協定が結ばれた。1960年代末から70年代にかけて、こうした骨太の社会派映画、告発映画がそれなりにつくられ、社会に訴える力を持っていた。アラン・パーカー。気になっていた監督のひとりだった。次は「バーディ」と「エンゼル・ハート」が観たいな。

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