「鬼戦車T-34」  1964年  ソ連

監督;ニキータ・クリヒン, レオニード・メナケル
出演;ヴァチェスラフ・グレンコフ, ゲンナージー・ユフチン
2008年9月?日  DVD  自宅ごろ寝シアター

dvd 第二次世界大戦下のナチス軍捕虜収容所。ナチスは、ソ連の捕虜たちにT-34(ソ連軍の戦車)を操縦させ、これを標的に射撃実験をしていた。実験に駆り出されれば、一斉砲撃を浴び、命はない。ある日、ベテラン操縦士のイワン、他3人がT-34に乗せられるが、見事に砲撃をかわして、戦車に乗ったまま脱走をはかった。実話を元にしている。
非人間的なナチスに対し、ソ連兵士の人間性を高らかに描く。分かりやすいソ連のプロパガンダ映画で、今となっては歴史遺産を見るような面白さ(interesting)もあるが、それを差し引いても魅力ある映画である。だって、主役は戦車T-34だから。T-34は第二次世界大戦期のソ連の戦車で、76.2ミリ砲、分厚い装甲、最大速度が55kmと、頑丈且つ機動力、攻撃力があり、ドイツ軍を悩ませた。この兵器史にも名を残す戦車(ホンモノ)が、木をなぎ倒し、建物をぶち抜き、銅像をぶっ倒して疾走する。逃走劇なので、おおよそ戦争とはかけ離れた所だってひた走る。街の広場に、突然、敵の戦車が現れれば、市民はそりゃもうびっくり。のどかな麦畑だって、堂々と突っ切っていく。とくに印象深かかったのは、女子捕虜収容所のシーンだ。突然、味方の戦車が現れ、ソ連の女性捕虜たちが歓喜に沸くが、戦車のなかでは、助けられない男たちの辛い表情が対照的に映し出される。お花畑を走る戦車を、女性捕虜たちが狂喜乱舞で追いかける映像は、心に焼きつく異様な光景であり、悲しい。ありとあらゆる風景のなかを疾走する戦車の姿は、兵器オタクでなくとも圧倒される。
兵器に疎い私は、この映画で、戦車という兵器がどういうものか、はじめて分かったよ。このT-34は実験用だから燃料も限られているし、もちろん砲弾もないけれど、鉄のかたまりが突進してきて、砲塔を向けられれば、逃げるしかない。戦車って上からでも攻撃されない限り、走るだけで恐い兵器になるんだね。
興味を引いたのは「死」を直接描写していないこと。近年「死」を生々しく描写する傾向があるが、表現手法としては貧しくなっているような気がする。「死」を描写しない意図は、単に教育的配慮とか、英雄への敬意なのかもしれない。稚拙な演出ではあるが、脱走兵たちの「死」を想像する時、彼らの哀しさ、戦争の虚しさなども同時にこみ上げてくる。

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