「冒険者たち」  1967年  フランス

監督;ロベール・アンリコ
出演;アラン・ドロン,リノ・ヴァンチュラ,ジョアンナ・シムカス
2009年3月?日  DVD  自宅ごろ寝シアター

dvd 飛行機乗りのマヌー、レースカーエンジニアのローランのもとに、前衛芸術家を目指しているレティシアがやってくる。それぞれ夢を追っていた3人が窮地に立たされた時、アフリカの海底に5億フランの財宝が沈んでいるという話を聞き、旅立つ。青春映画の傑作。
恋、友情、夢、海底に沈んだ財宝、冒険、飛行機、自動車…当時の若者が憧れたものが全部詰まった映画。財宝なんて見つからなくたって、夢が実現しなくたって、3人はそれなりに幸せな人生を送れたんじゃないかなぁと思う。彼らが夢を追っている時、財宝を探している時、友情や恋を語る時、悩みや挫折はあるにしても、幸せそうで生き生きしていた。そういう時間は、その後の人生を支えていくだろうと思うから。でも、財宝=金は現実そのものである。目の前にした途端、分け前を賤しく要求するヤツ、奪うヤツが出てくるし、大きな犠牲も払うことになるし、そんな金で買える高級車や洋服なんてへみたいなものだ。その金で夢が実現できるかもしれないが、恋しい人も、あの満たされた時間も虚しい思い出になってしまっては意味がない。
どっちかと言うと、男を泣かせる映画。無骨だけど優しいローラン(リノ・ヴァンチュラ)、美青年のマヌー(アラン・ドロン)に、不思議美少女レティシア(ジョアンナ・シムカス)。タイプの違う男2と女子1は、男子胸キュン恋愛ストーリーの黄金比!。そしてレティシアは、サバサバして明るいけれど、どこか寂しげで脆そう。これは、私の長年の分析によると(笑)、男がいちばん憧れ、守ってあげたくなる女子像だ。三角関係と男の友情、彼女を守れなかった男としての悔しさや虚しさ、彼女がいなくなった後で分かってくる悲しい過去と…、男泣かせのツボをがっつり押さえてると思う(男子じゃないんで、想像でしかないんだけど(^^ゞ)。
映像も素晴らしい。飛行機や自動車や鉄、銃や要塞、やたらと男くさくて機械的なものを撮っている割には、美しく叙情的である。廃車工場にレティシアが現れるところから、スクラップされる車やレティシアのたたずまいに、何となく切なさが漂い、次のシーンでは、突然、地面すれすれに飛んでくる複葉機に驚き、機械とは思えないしなやかな動きにうっとりとしてしまう。冒頭から、ほぼ映像だけで観客の心を奪い、作品世界にぐぃぐぃと引き込むのである。南の海の船上でふざける3人には青春の刹那的輝きを感じ、海に吸い込まれていくレティシアには、何も言わずとも男たちの無念が胸に迫り、海にぽっかり浮かぶ要塞は冷たく孤独である。映像が感傷を呼び起こす。甘ったるいかもしれないが、私はこの映像のセンス好きだな。
音楽も印象に残る。たたきつけるような激しいピアノと、口笛パートの切なく美しメロディという正反対のパートが交互に流れてくる。男たちの野心とレティシアの悲しみが一体になったよう。

ひとりごと 「冒険者たち」への憧れ
悲しいが、こういうスケールの大きい青春映画を作るのは、もう難しいなぁと思う。
やっぱり70年代初頭頃は、いろんな意味で、転換期のような気がする。それまでは、どの国も経済は成長して、豊かになって、若者はますます自由になって、真面目に夢や憧れを抱いて、追いかけた時代だったと思う。70年代後半頃から、成長は行き詰まり、努力が報われないことも多くなって、夢の実現はどんどん難しくなって、そして、キラキラした目で夢を語るのがダサくなった。私は、80年代後半に青春を送ったが、日本だけはバブルで浮かれていたけど、いやバブルだからこそ、企業社会のような安定した道から外れて、貧乏でも、辛くても、努力して夢を追いかけることが、軽く扱われていたような気もする。70年代後半の「しらけ世代」、80年代の「新人類」という言葉に象徴されるように、頑張って夢を追いかけた世代には理解不能な無気力若者がわんさかと出てきたのである。そして、現在。世界的に若者の失業・貧困が問題になっているなか、若者に、夢や憧れを抱けといっても無理かもしれない。安定した職を得ることが最優先目標だから。私は、学生の頃、学生運動や夢を熱く語り合った大人たちの思い出話や、力強いメッセージを放った60-70年代のフォークやロックを聞きながら、その時代の若者に憧れていた。あと20年早く生まれたかったなぁと。だから、この映画は、私が憧れた若者像そのものであり、リアルタイムで胸躍らせながらこの映画に夢中になった世代を羨ましく思う。

Cinema Diary Top