「パルプフィクション」  1994年  アメリカ

監督;クエンティン・タランティーノ
出演;ジョン・トラボルタ,サミュエル・L・ジャクソン,ユマ・サーマン,ブルース・ウィリスほか
2010年8月  DVD  自宅ごろ寝シアター

dvd コーヒーショップで強盗を思いつくパンプキン&ハニー・バニー、スーツケースを取り返しに行く2人組ギャングのビンセント&ジュールズ、ボスの女房ミア&ビンセント、ギャングボスのマルセール&八百長試合を約束させれたボクサーブッチ。それぞれのパルプフィクション(くだらない物語)が、時間軸がバラバラなりながら交錯していく。
映画史に残る1本(好き嫌いはあると思うけどね)。タイトルにもなってるけど、偉そうな評論家が軽蔑してしまうような低級小説・B級映画レベルの荒唐無稽ストーリーを、ここまで面白くクールにしたことがスゴイ。くだらない事を大まじめに追求して完成度を高めていくと面白さが生まれることがあって、そういうものを私たちはどこかオタク的な感性で楽しんでいるところがあると思うけど、本作はそこをぎゅっと濃縮した感じ。映画はストーリーだけじゃない、タランティーノは何が面白いのかをよく分かっている監督だと思う。
「Don't Think!,Fe〜eeel」な映画なので、面白さを説明するのは難しいし、野暮。でも敢えて言うなら、一つは巧みな構成による面白さ。何本かのパルプフィクションのいちばん危機的で盛り上がる場面だけを切り抜いて、それらの時間軸をバラバラにして繋ぎ合わせる。そうやって主役を替えながら、手変え品変えクライマックスシーンを次から次へと繰り出し、飽きさせず、高いテンションを維持したままラストへどっとなだれ込んで、終わった後に観客に時間軸を再構成させて楽しませる余白まで与える。アッメージングで、ファンタァースティックで、ミラコゥな構成(意味不明・笑)。
もう一つは、絶妙な"ズレ"。例えば状況とセリフ・会話のズレ。極悪人がパルプフィクションの対極の書物である聖書の言葉をカッコつけて唱えてみたり、薬物ショックで生死をさまよった直後なのにおやじギャグより凍りつくダジャレをぽつりと言ったり、命より大切な形見のエピソードが笑うしかない内容だったり。ヤバイ状況に対して、セリフや会話がどうでもいい内容でズレていると、そこに面白さや、時には格好良さまで生まれてくる。さらには人物と行動のズレ。登場人物たちは、ヤクも殺人もへっちゃらな奴らなんだけど、そんな怖いものなしの彼らにも、逃れられない人生の危機はふりかかってきて、半べそかきながら必死に乗りきろうとしている姿も可笑しい。トイレから出ると必ず災難が待っているビンセント=トラボルタに(笑)。もう細かいことを挙げるとキリがないぐらい、いちいちくだらなくて面白い。
そして、タランティーノ作品に共通して言えることだけど、登場人物の魅力。役柄と俳優の個性が組み合わさることで強烈なキャラクターを生み出す。どんな俳優をどういう風に置けば面白くなるか、そういう感性が鋭い監督なんだろうなと思う。そりゃ、長年不遇だったトラボルタも甦るよ。
字幕がちょっと残念。戸●氏の字幕が嫌いというわけではない、こういう映画には向いてないと思うだけ。格好いいギャングが「べろ」とか「なめなめ」とか田舎のスケベおやじみたいな言い方してほしくないし、ギャングボスの「おん出ろ」とか「おっ死ね」には、もう脱力…orz。

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「マシニスト」  2004年  スペイン

監督;ブラッド・アンダーソン
出演;クリスチャン・ベール,ジェニファー・ジェイソン・リー,アイタナ・サンチェス=ギヨン
2010年8月  DVD  自宅ごろ寝シアター

dvd 機械工のトレバーは不眠症で1年間眠れずにいた。ある日、新入りの溶接工アイバンに気を取られ同僚に大けがを負わせてしまうが、工場にはそんな人物はいなかった。そして、冷蔵庫には不可解なメモが残されるようになる。トレバーは誰かが自分を落とし入れようとしていると思いこみ、精神的に追いつめられていく。
この手の映画は他にもあるけど、非常に巧妙に、丁寧に作り込まれている。見ていて、ざらつきを感じるもの、例えばトレバーとは対照的に脂ぎった男アイバン、冷蔵庫に貼られたメモ、いつも1時30分を指す時計、さらには本、シガーライターや部屋の置物とか、チラッとうつり込むだけの小物までもがすべて謎に繋がってくる。映像も巧み。極端に彩度を落とした冷たい映像は不安感や焦燥感をかき立て、一転してラストは真っ白に。そこにトレバーだけでなく、見る者までもが一気に陰鬱さから解放されるようなカタルシスを感じさせる。
と、何だかんだ言ってもですね。この映画の出来を決定的にしたのは、主演クリスチャン・ベールの役作り。彼はこの役のために30キロの減量をした。目は深く窪み、背骨やあばらの形がそのままボコボコと浮き出てる。実力ある俳優ではあるが、この生存ギリギリの体で、ただ走ったり、叫んだりするだけで、もう目を背けたくなるほど病的。本当に死んじゃいそうで怖いよ。
冷蔵庫に貼られているメモはハングマンゲーム。↑DVDのデザインにもなっている。日本人には馴染みがないから、不可解なメモに見えるけど、ググってみると英語圏では子供たちが普通に遊ぶ単語当てゲームらしい。ルールは、問題を出す側は単語のスペルの数だけ下線を引く。相手はこの隠された英単語に入っていると思うアルファベットを一つづ推理すして答える。当たっていれば、そのアルファベットを下線の文字が入る場所に書き、はずした場合は首を吊り人形の絵を一画くづつ書き足していく。首つり人形が完成してしまったら負け。主人公がゲームを解こうとするたびに、残酷な絵がすこしずつ完成し、彼の不眠の謎と重なり合っていく。こういう小道具の選択と使い方もセンスがいい。

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「ヴィレッジ」  2004年  アメリカ

監督;ナイト・シャマラン
出演;ブライス・ダラス・ハワード,ホアキン・フェニックス,エイドリアン・ブロディ,ウィリアム・ハート,シガニー・ウィーバー
2010年8月  DVD  自宅ごろ寝シアター

dvd 19世紀、深い森にかこまれた村で暮らしをしている人々がいた。森を抜けて町へ行こうとする者は誰ひとりいない。森には魔物が住んでおり、村人は森へ入らない代わりに魔物は村を襲わないという契約を交わしていたからであった。しかし盲目の少女アイビーとルシアンの結婚が決まった頃、村では魔物の仕業と思われる家畜の死体が転がりはじめた。
あっと驚かせるオチで勝負する監督。本作では、二重三重に謎を仕掛けてくる。魔物の正体をあっけなくバラしたなと油断してると、さっきの話と違うじゃーん!と再び惑わされ、突然、別の方向から本当の秘密はこっちだよーんと最後の最後まで観客を振りまわす。見終わってから考えると、合点がいかないところもあるけど、鑑賞中は監督の策にまんまとはめられ、ドキドキしっぱなしだった。
評価が分かれる映画である。確かにサスペンスの部分では粗さはあるが、それを補って余りあるほど本作は悲しみを背負った人のドラマ、慎ましく美しいラブストーリーでもあり、それを通じてユートピアはあるのかという大きな広がりまで持たせている。大人たちは自分たちを傷つけた「町」の恐怖や苦しみから逃げているけど、どんな時代でも、どんなに清い人々のコミュニティでも、人間の罪深い行為は決してなくならない。大人たちは村=ユートピアに固執するあまり、同じ悲しみを子供に背負わせようとするのだから、ここは本当にユートピアなのか?と疑問がわいてくる。大人は経験しすぎたゆえに臆病で、アイビーは盲目で知らないゆえに強い。アイビーのように、恐怖や苦しみに立ち向かってこそ本当の幸せがあるのかもしんない。
ここからちょっとネタバレ(^^ゞ。最初に村の様子が描かれるところで「アーミッシュ」っぽいと思ったのだが、これは多分、監督が意図的にそう演出しているのであって、この計算された演出は見事(アーミッシュをもっと知りたい人には、ピーター・ウェアー監督、ハリソン・フォード主演『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985年)がオススメ)。を印象的に使った映像も美しい。新人のブライス・ダラス・ハワード(映画監督ロン・ハワードの娘)は初々しくも力強く、シガニー・ウィーバー、ウィリアム・ハート、エイドリアン・ブロディなど、脇をかためる役者も良かった。

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