「ライトスタッフ」  1984年  アメリカ

監督;フィリップ・カウマン
出演;サム・シェパード,スコット・グレン,エド・ハリス,デニス・クエイド
2010年12月31日  DVD  自宅ごろ寝シアター

dvd アメリカ初の有人宇宙飛行計画であるマーキュリー計画の宇宙飛行士に選ばれた元空軍パイロットたちと、航空機で高度の限界に挑んだ空軍テストパイロットのチャック・イェーガーが対比されつつ描かれる。実話。40代後半〜50代男性でこの映画を好きって言う人は多い。分かるよ、だってかっけぇもん。
本作は、徹底してパイロット(+家族)に焦点を当てていく。私たちは、面子を保ちたい政府の大げさな発表や、英雄を求める移り気なマスコミを通じてしか宇宙飛行士・パイロットを知らないが、その裏にあるパイロットと家族たちの本音と人間関係が細やかに描かれる(どこまでフィクションか、ノンフィクションかは分からないけど)。命がけで挑戦する者にしか分からない失敗=死の恐怖、成功を期待する人々のプレッシャー、挫折、孤独、それでもなお限界に挑戦したいという本能としか言いようがない衝動と憧れ。そして妻たちの不安。
マーキュリー計画を描きながら、この映画に深みと感動を与えているのは、マーキュリー計画に全く関わっていないチャック・イェーガーの存在だ。もちろん、パイロットの誇りや命なんかよりソ連に勝つこと方が大切な国家の下で、厳しい訓練にも耐え、宇宙時代を切り開いていったマーキュリー7たちも感動させられる。しかしイェーガーは能力を正しく評価されていないし、宇宙飛行士にもならなかった。それでも自分に与えられた環境で、ひとり航空機の記録に挑戦をつづけ、宇宙飛行士にも真似できない偉業を達成するのである。恵まれない待遇でも、誰にも顧みられなくとも、プライドを失わず、テストパイロットとしてつねに最高の仕事をしようとするイェーガー。多くの人が共感し、励まされるのはイェーガーだろう。マーキュリーのパイロットたちがヒューストンのパーティで英雄的扱いを受ける一方で、イェーガーが寂れた飛行場でひとり月を見上げるシーンは印象的。もし彼がいなかったらマーキュリー計画成功譚=アメリカ万歳の薄っぺらな映画になっちゃうような気がする。彼の存在によって人間の限界に挑戦し続ける者たちの濃い人間群像劇になったと思う。ちなみに本物のチャック・イェーガーは2014年現在、91か92才のはず。
「right stuff」の意味がイマイチ分からない。たしか字幕でも「正しい資質」の文字の上に「ライトスタッフ」とルビがふってあったり。「正しい資質」ってのもピンとこないし、日本語にしにくいんだろうな。文脈からすると、その人にしか成し遂げられないこと、その才能や能力という意味合いかしら?。
この監督の他代表作は『存在の耐えられない軽さ』(1988年)、『ヘンリー&ジューン、私が愛した男と女』(1990年)。この2作品は恋愛とエロスがテーマで、『ライトスタッフ』とは180度違うけど、映画の作りは同じ。あーこの人の映画だわと分かる。1シーンが長くて、語りすぎないセリフ、行間から、人間関係の移ろいを丁寧に描き出していく。大きな盛りあがりがあるわけじゃないのに、1シーン、1カットをじっくりと見せてくれる。そしてどれも尺が長い(笑)。
音楽も良いんだよなぁと思たっら、作曲者はビル・コンティだった…あの伝説の映画音楽『ロッキー』のテーマの作曲者。目を閉じてライトスタッフのテーマ曲を聴いていると、人類未踏の領域に飛び立っていく男たちの背中が見えくるよ。

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「アラバマ物語」  1962年  アメリカ

監督;ロバート・マリガン
出演;グレゴリー・ペック,マライー・バダム,フィリップ・アルフォード,ジョン・メグナ
2010年12月30日  DVD  自宅ごろ寝シアター

dvd 1930年代、人種差別が残る南部アラバマ州。弁護士アティカス・フィンチは白人女性への暴行で訴えられた黒人青年の弁護を引き受けるが、村人はアティカスに冷く当たるのだった。アティカスの子供=お転婆少女スカウトと兄ジェムの目を通して父親の孤独な闘い、村人たち偏見を描いていく。原作はネル・ハーパー・リー『To Kill a Mockingbird』。大ベストセラーで、日本でいう文科省推薦図書的名作らしく、テーマは明確、物語もしっかりしている。
映画で正義の人を描くのは難しい。抑えた演出でも立派な人間像はそれだけで鼻につき、現実味もないから。しかし本作では子供の目から見た父+大人になってからの回想という装置を通すことによって、観客はアティカスを自然に受け入ることができる。子供にとって父親は絶対に正しく、子供時代は宝箱のようにキラキラしてるのだから。さらに、世間のことを何も知らない子供の視点は、ニュートラルな立場で差別、貧困などの難しい問題を描くことにも成功していると思う。
本筋ではないが、印象に残ったのは黒人メイド。母親のいないフィンチ家も黒人メイドを雇っているが、彼女は子供たちが他人に失礼な振る舞いをした時は、母親のように叱り、なぜいけないかを説明する。彼女を見ているだけで、自分たちの体裁のために黒人に罪をなすりつけても平気な人たちばかりの村で、アティカスが彼女を日頃から信頼し、ひとりの人間として尊重していることが分かる。
子供なりに、頭や理屈ではなく、経験のなかで差別や偏見を理解していく様子が、伏線、印象的なセリフで巧みに表現されている。スカウトがアティカスから「モッキンバードを殺すことは罪」と教わるシーンがある。モッキンバードは畑を荒らしたりしないし、人の困るところに巣を作らないし、美しい声で人を楽しませるから。つまり、(偏見や差別にさらされている)善良な人々を殺すのは罪だということ。スカウトは黒人差別の根深さも、法律も、大人の事情も理解していないと思う。子供社会では黒人差別より近所の「変な人」が偏見の対象になってしまうのだが、父の背中を見てきた彼女は、父親も見落としそうになった「モッキンバード」に気がつくのである。
2003年の古いデータだけど、アメリカ映画100年のヒーローベスト100で、2位インディアナ・ジョーンズ、3位ジェームズ・ボンドというそうそうたるヒーローを抑え、アティカスが堂々の第1位。正義感、強い信念、仕事に一生懸命、そして優しい父親。これがアメリカでは理想の男性像なんだろうな。アメリカでは、ヒーローと言えばスーパーマンではなくアティカス、グレゴリー・ペックと言えば、『ローマの休日』ではなくて『アラバマ物語』
知的障害者ブー役のロバート・ディヴァルって名前、何かで見たなぁと調べてみたら、ゴッド・ファーザーのトム・ヘイゲン役の人だった。本作がデビューぐらいか?。あまりにもイメージが違ったんで驚いたよ。

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