「トト・ザ・ヒーロー」  1991年  フランス=ベルギー=ドイツ

監督;ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演;ミシェル・ブーケ,ジョー・ド・バケール,トマ・ゴデ,サンドリーヌ・ブランク
2010年1月?日  無料動画  自宅PCシアター

dvd トマは、向かいに住むお金持ちのひとり息子アルフレッドと産院で取り違えられたと固く信じていた。不幸つづきのトマ一家。トマの夢は、いつか憧れの探偵トト(トマの愛称でもある)・ザ・ヒーローになって、一家を救うことだった。。。
大好きな映画。虚しい男の一生がまるで美しい紙芝居でも見るかのようにファンタスティックに語られていく。老人トマの回想からはじまり、現在と過去を行ったり来たりする複雑な構成なのに、流れるように展開する。ある人間の一生を描いた作品としては、ジョージ・ロイヒル『ガープの世界』(1982年)の次ぐらいに好き。
不幸な子供が「本当はボクはお金持ちの子なんだ、ヒーローなんだ!」と思いこむのは仕方がない。自分の力では境遇を変えられない子供が現実逃避するための手段だから。しかし、人は大人になるにつれ、つらい現実を受け入れて、人生では叶わないことがあることも知り、自分の努力で、精一杯、幸せ、愛する人を探していくんだと思う。トマの不幸は、貧しい境遇や父や姉を失ったことではない。大人になっても「本当はお金持ちなんだ!、ヒーローなんだ!」という思いを捨てられなかったことだ。トマにも幸福の選択肢はあった。しかし、アルフレッドを妬み、亡き姉アリスの面影を追い求めつづけ、ボクはこんなはずじゃないと駄駄をこねているうちに、人生は通り過ぎてしまう。
全編を通して凝りに凝った作品だが、最も精彩を放つのは、アルフレッドの一言で、老人トマが自分もまたアルフレッドを不幸にした存在だったことに気づく瞬間からである。ここからはある意味、すごいどんでん返しの連続技。ネタバレにならないようボヤ〜ッと言うと(汗)、トマは、幼い頃からの夢をすべて叶えるのだけど、それはアルフレッドの不幸をもぜんぶ背負い込むことによってである。この逆説的というか、泣き笑いというか、トマの虚しさと命の輝きが渾然一体となった結末には、言葉にならない感慨がこみあげる。現実と空想、次から次へと繰り出される驚きとどんでん返し、涙と笑い…元サーカスのピエロだった監督だからこそ描けた人生賛歌のような気がする。
音楽も良い。曲は素朴な幸福感を歌ったシャンソン「ブン」。この曲が映画のなかで、トマの唯一の幸せな思い出の象徴として、リフレインのように流れる。トマが父と姉がこの曲を演奏している幻を見るシーンはあたたかで切なく、また決してハッピーではないラストシーンにこの曲が重なると、どんな人生でも愛しいとしみじみ思えてくる。
俳優では、トマの姉アリス役のサンドリーヌ・ブランクが良かった。子供なのに背伸びして大人ぶる生意気さと健気さ、そしてちょっとかいま見せる小悪魔的なエロさは、見る者をぐぐっと惹きつける。
本作の公開はミニシアターのみだったが、じわじわと話題になっていった記憶がある。本作を好きだという人は多いがDVDは出ていない。私も、もう一度見たいなぁとずっと思っていたが、ある日ニコニコ動画に全アップされているのを発見し、著作権法違反とは知っていたが、欲望に負けて鑑賞した。現在(2011.12)、ニコ動にもYouTubeにもupされているが、いずれもラストシーンが削除されている。こんな状況を放置するなら、とっととDVD化してほしい。

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