「イングロリアルス・バスターズ」  2009年  アメリカ

監督;クエンティン・タランティーノ
出演;ブラッド・ピット,メラニー・ローラン、クリストフ・ヴァルツ
2011年2月?日  wowow録画  自宅ごろ寝シアター

dvd 1944年ナチス占領下のフランス。ナチスに家族を殺されたユダヤ人ショシャナは映画館主としてひっそり生きていた。同じ頃、米軍レイン中尉の特殊部隊はフランスに潜伏してナチスを虐殺することを任務としており、その残虐さはドイツ軍からも怖れられていた。ショシャナの映画館にナチス高官が一堂に集まることになり、ショシャナもレインも行動にでるが…。
戦争娯楽・アクションをマカロニウェスタンスタイルで撮った映画。『パルプ・フィクション』に並ぶタランティーノの傑作だと思う。でも、R15になるぐらいバイオレンス描写が一段と凄いことになってるんで一般受けはしないけど。
何この破壊力。『パルプフィクション』がB級小説レベルの話をクールにしてしまった映画なら、『イングロリアス・バスターズ』はタブーを娯楽作にしてしまった映画。本作は戦争娯楽or戦争アクションといったジャンルに入ると思うけど、この手の映画はアメリカイケイケ時代にはたくさん作られたが、ベトナム戦争以降はパタッと作られなくなった。タランティーノも本作の参考にしたと思われる『特攻大作戦』(67年)が最後ぐらいではないだろうか。ベトナム戦争の悲惨な現実が明らかになるにつつれ、戦争娯楽・アクション映画はタブーになり、戦争映画は作り手の戦争観が問われるようになった。しかし、これをぶっ飛ばしちゃったのがこの『イングロリアス・バスターズ』。歴史映画・戦争映画では、最も慎重に扱わなければならないナチとユダヤ人という題材を『パルプフィクション』や『キル・ビル』と同じセンスで映画にしちゃうんだからスゲぇよ。たぶん、史実を中途半端に都合良くねじ曲げていたり、平凡な娯楽作だったら、不謹慎だろ!と腹が立つだろうと思う。私は歴史映画・戦争映画には辛口だけど、ここまでデタラメで面白いと、史実だとか、ナチとユダヤをふざけた扱いをすることに、いちいち目くじら立てるのもバカらしくなってくる。そのぐらい破壊力がある。
言うまでもなく、タランティーノの真骨頂でもある、グダグダの会話の水面下でどこまで分かってんのか分かってないのか探り合う駆け引きの緊張感、ちょっとしたことで計画がズレまくって慌てふためくおかしさも爆走中。人物造形とキャスティングも相変わらず冴えまくっていて、登場人物がキレッキレッに面白い。ランダ大佐役のクリストファ・ヴァルツも紳士ぶった笑顔が小憎らしくて、主役ブラピを喰っちゃいそうなぐらいの存在感だったけど、私はやっぱりレイン中尉役のブラピが一番良かったな(←面食いなんで・笑)。良い感じで二枚目から抜け出てた。私のツボにはまったのは、レイン中尉がイタリア人になりすまして、ドイツ人高官が集まる映画上映会に潜り込んだ時。予想外にイタリア語ペラペラのランダ大佐に話しかけられて英語訛りまるだし、バレそうになってる時のブラピ顔といったら!。あのブラピもこんな顔芸ができるようになったかと(笑)。今思い出しても笑える。
タランティーノの映画オタクは有名で、本作にも彼お気に入り映画、特にマカロニウェスタンからの引用オマージュが散りばめられているらしい。私は冒頭シーンがクリント・イーストウッド『許されざる者』(1992年)からの引用という以外はよく分からず、後になって映画館が燃えるシーンがロベール・アンリコ『追想』(1975)だと知ったぐらい。でも十分に楽しめた。マカロニファンはもっと楽しめると思う。

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「裏窓」  1954年  アメリカ

監督;アルフレッド・ヒッチコック
出演;ジェームズ・スチュアート,グレース・ケリー
2011年2月?日  DVD  自宅ごろ寝シアター

dvd 足を骨折したカメラマンのジェフ。車椅子生活で暇を持てあまし、裏窓から向かいのアパートの住民ウォッチングを楽しんでいた。ある雨の夜、向かいに住む病弱の妻を持つセールスマンの不審な行動から、ある疑惑を持つ。恋人のリザ、看護婦のステラと事件の真相を探りはじめる。
主人公が動けない。カメラも部屋から出ない。不自由ゆえの面白さ。確実に分かっていることは主人公ジェフが裏窓から目撃したことのみで、あとは友人の刑事がちまちま情報を仕入れてくるものの、「殺人事件」は不十分すぎる断片を繋いだジェフの推測に過ぎない。なのに恋人リザの行動はエスカレートしていくわ、でもジェフは動けないわ、カメラはジェフ目線なので観客はジェフと一緒に部屋に閉じ込められてしまって、あっち側のアパートでの恋人のやりたい放題をジェフの気持ちでこっち側の窓から見ているしかできないというハラハラドキドキ感!。窓のこっち側で覗き見して妄想しているうちは、窓というスクリーンを通して映画を観ているようなもので、あっち側でたとえ殺人が起きていようが対岸の火事。観客も覗き見を楽しんでいられるが、その窓を越えた瞬間から一気に対岸の火事が引き寄せられ、緊迫した事態が畳みかけるように展開されていく。
恋人リザのキャラクターが魅力的。彼女はセレブモデル。演じるのはグレース・ケリー。カメラマン(報道関係らしい)のジェフは結婚で縛られたくないのか、セレブのおまえに冒険なんかできないだろ?、カメラマンの女房なんてムリムリと結婚を渋ってるんだけど、リザは見てらっしゃいとばかりに事件の証拠になる結婚指輪を盗み出し、それを左手にはめてちらつかせ、ジェフをいろんな意味でドキッとさせる。冒険しすぎである…。グレース・ケリーみたいな美人が、貧乏カメラマンのために冒険してお茶目なところも見せちゃうなんて、ジェフじゃなくとも男はみんなこのギャップにやられちゃうんじゃないかしら(笑)。
この映画でやっと「マクガフィン」が分かったよ。今までそんなことも知らずにヒッチコック見てたのかと言われそうだけど(^^ゞ。「マクガフィン」はヒッチコックが作った言葉・概念で、映画用語的には、物語を動かしたり、登場人物を動機づけたりする仕掛けや小道具のこと、物語の語り手としては目的が達成したら無視していいもの、内容に重要な意味を持たせる必要がないなどと説明される。当然ヒッチコックの映画に使われているんだろうなとは思ってたけど、この説明じゃ何が「マクガフィン」かピンとこなかった。でもこの映画で(゚∀゚)!ピンときたーーー。私の理解が間違ってなければ、本作はマクガフィンだけで展開する映画だ。向かいのアパートの男が夜中怪しい行動を取り、朝、奥さんがいなくなっていた。この事実がマクガフィン。殺人事件の内容はジェフによってザックリと推測されるだけ、本当に殺人事件があったかどうかすらも最後までハッキリしない(状況から彼の推測が正しかったんだろうなとは思うけど)。でもこれをきっかけに物語が展開する。また子犬が掘り出そうとしたものもマクガフィン。登場人物に窓を越えるきっかけを与えるけど、何が埋まっていたかは不明。本作には事件の謎もトリックもない。あるのは殺人を匂わせるマクガフィンだけ。しかも狭い空間で動きも乏しいのに、ここまでスリリングで楽しい映画を作ってしまう。ヒッチコックの凄さを改めて認識した。私は今まで見たヒッチコック作品で一番好きだな。
ついでに、「裏窓 マクガフィン」でググると、『マクガフィン 殺意の裏窓』(1985年)という映画が引っかかるんだけど、どんな映画か気になる〜。知ってる人がいたら教えてください。

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