「トウキョウソナタ」  2008年  日本

監督;黒沢清
出演;香川照之,小泉今日子,小柳友,井之脇海,井川遙
2011年7月?日  NHKBS録画  自宅ごろ寝シアター

dvd

リストラされても家族に言えない父。家族思いだけど虚しさも感じている母。父親に反発してアメリカ軍に入隊する長男貴、父親に反対されるのが怖くて給食費でこっそりピアノを習い始める次男健二。秘密を抱えたバラバラ家族はどこへ行くのか。
家族の物語も時代とともに変わるなーと思った。80年代の家族映画の代表は、森田芳光『家族ゲーム』(82年)。高度成長が行き着いた先の家族を皮肉っている。「中流」家庭、安定した生活のなかで、父親・母親は親としての役割を果たそうとしない。お金で解決できるなら面倒なことはしたくない、楽できるなら楽したい。家族内の人間関係は希薄で衝突さえ起こらない。
しかし、バブル崩壊後の『トウキョウソナタ』は、「中流」家庭を保つことが難しくなった時代の家族。安定した職業と収入が崩れるなかで、父親は家族を養うということに裏付けられていた威厳を守り、取り戻そうとし、母親は夫や立て子供を理解し、バラバラになりはじめた家族を引き止めようとする。長男は家族を守るため軍に入り、次男は親の顔色ををうかがう。それぞれが家族内での立ち位置を考え、役割を一生懸命果たそうとするがゆえに、大切なことを隠したり、見なかったことにしたり、きちんと話し合えなかったり。鬱屈した思いは家に持ち込まないで、みんな家の外で孤独に戦っている。終盤、家を捨ててやり直したいと思う父と母に、そのきっかけが訪れるけど、家族がいることを思えば、父の元同僚や母をさらった強盗の選択はありえないし、結局、戻るところは家しかない。悩み苦しみ、疲れて家に帰ってきた家族が、それぞれ秘密を胸にしまったまま食事をとるシーンは哀しくて愛しい。
経済基盤だけが理由ではないが、バブル崩壊後、真面目にやってれば当たり前に誰もが手にできた「中流」家庭の生活が揺らぐなかで、大人たちは家族間の関係をもう一度見つめ直し、仕事&自分より家族の優先順位が高まり、求める家族像、価値観も変わってきたのは確かだと思う。
最後に流れる曲はドビュッシー「月の光」。(音楽の知識は怪しいが)ドビュッシーと言えば不協和音、でもそれらが美しい音楽になる。次男の健二は、不協和音の家庭環境にいたからこそ人を魅了する音楽を奏でることができるのだと思う。不協和音でも、この家族は美しい音楽になれる。ドビュッシー「月の光」は家族の再生を暗示している。
父親役の香川照之はさすが。予想通り。母親役の小泉今日子が意外に良かった。カリスマ性は消え、肌のツヤもなく皺もあって、ただの生活に疲れた年相応の女性に見えたよ。「あまちゃん」の母親役も良かったけど、私はこっちのキョンキョンの方を高く評価したい。ちょっと見直した。

『トウキョウソナタ』予告

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「サイン」  2002年  アメリカ

監督;ナイト・シャマラン
出演;メル・ギブソン,ホアキン・フェニックス,ロリー・カルキン,アビゲイル・ブレスリン
2011年7月?日  DVD  自宅ごろ寝シアター

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グラハムは元牧師だったが、妻の事故をきっかけに信仰を捨て、農場を営んでいた。元野球選手の弟メリル、喘息の息子、娘と4人暮らし。ある日トウモロコシ畑にミステリー・サークルが出現し、謎の飛行物体も目撃されるようになる。
ラジー賞の常連になってしまったシャマラン。本作も、世間では酷評されているが…私はけっこう好き(^^ゞ。
この監督の不幸はデビュー作『シックス・センス』がヒットしたことだと思う。以来、オチが期待されてしまうが、それはちょっと可哀想(確かにしょーもない作品もあるが)。シャマランの映画は基本、人間ドラマだと思うから。
シャマラン監督は"つかみ"の天才だと思う。影のある家族のちょっと陰鬱な日常。そこに突然現れるミステリーサークル、気配しか見せない謎の生物…何かが起こっている。しかし、ど田舎の彼らが情報を得る手段はラジオやテレビぐらい。間接的情報は入ってくるが、部分的で、不確実、それらに滑稽なほど振り回される。導入から謎にぐいぐい引き込まれ、不安を煽られる。しかし、シャマランは盛り上げるだけ盛り上げといて、この観客の胸の高鳴りをあっさり裏切るんである。何のひねりもない、矢追純一以外にだれも喜びそうにないベタベタなB級映画オチで(ちょっとネタバレ(^^ゞ)。多分、これは確信犯的にやってると思うな。毎度毎度どんでん返しを期待する観客を、逆の意味であっと驚かせるシャマラン流ユーモアじゃないかと(笑)。
しかし、B級映画にならないのは、深いテーマと人間ドラマががあるから。本作は「Signsサイン=神の啓示」がテーマ。ミステリーサークルは一体何の「サイン」なのか?その意味は?と…思わせておいて、最後に別の深い意味が展開され、伏線が巧みに隠されていたことに気づかされる。「神の啓示」は、言い換えると、どんなに理不尽で不幸なことにもすべて意味があり、人生において無駄なものなど何一つないということ。これは、誰しも一度は感じることではないだろうか。不幸が重なりどん底にいる時は先が見えないから、神も仏もないと思う。しかし時が経ってから振り返ると、その不幸が人生の重要な選択を促したり、状況を変えるきっかけになったりすることに気づいて、何か大きな力に背中を押されたように感じることもある。本作では、信仰を捨てた男が信仰を取り戻す過程として描かれていく。安っぽいSF世界のなかに、神の啓示と信仰という真面目なテーマを展開させるなんて、発想もユニークだけど、冒険する監督だなぁと思うわ。

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