「眼には眼を」  1958年  フランス=イタリア

監督;アンドレ・カイヤット
出演;クルト・ユルゲンス,フォルコ・ルリ
2011年3月  VHS  自宅ごろ寝シアター

dvd

アラブの町。深夜にフランス人医師ヴァルテルの自宅へアラブ人ボルタクが急患の妻を連れて押しかけてきた。ヴァルテルはハードな勤務を終えて帰ってきたばかり。診療を断り、病院へ行くように告げたが、病院へ行く途中でボルタクの車が故障し、妻が死んでしまう。ボルタクはヴァルテルを砂漠へと誘い出し、想像を絶する復讐を仕掛けるのだった。
医師はプライベートな時間と場所で休養中に急患の診療を断った。手遅れになったことを知り、罪悪感ももっている。医師に過失はないし、決して悪人でもない。しかしボルタクは妻の死の悔しさ・悲しさを医師への復讐に変えていく。医師の後悔や罪悪感、焦り、苛立ち、疲労…心理状態を巧みに読みながら行動を操り、じわりじわりと地獄へ誘う。思いも寄らぬ恨みを買うってだけでも怖いけど、ボルタクのやり口の巧妙さや、命がけで復讐してくる執念にぞぞぞぞーーーっとする。医師が一抹の後悔や罪悪感を持っていて、ボルタクにも運の悪さが重なって妻を亡くしたところまでは同情できる(その後の行動は別)、ってところに作り手の巧妙さがある。これが、ボルタクだけを完全な悪者にできない、観るものを非常に複雑な気持ちにさせる。
「目には目を」とはハンムラビ法典の文言で、罪を犯した者は同等のもので償うという意味だが、被害者は奪われたもの以上の復讐はしてはいけないという戒めでもある。目を傷つけられたら、目だけにしとけ、命まで奪うなということ。ボルタクは医師の命まで奪うつもりはなかったのだと思う。セリフにもあるように、死の間際の苦しさを医師に分かってもらえればそれでよかった。しかし、医師は最後の最後に彼のその言葉を信用できなかった。だから命には命を、ボルタクはさらなる復讐で返した。ラストのカメラの引きには愕然とするよ。
二人の深い溝を、合理的思考・行動の西洋諸国と危害には報復で応えるアラブ諸国との関係、永遠に分かり合えない国・文化圏に置き換える見方もある。確かにそういう見方も出来る。しかしアンドレ・カイヤットの他作品『裁きは終わりぬ』(1950)などを見ると、もっと単純に、異なる価値観や感情を持つ人間の相互理解の難しさ、そういう人間が人間を公平に裁けるのか?というところに関心があるのではないかと思う。
アンドレ・カイヤットも、この作品ももっと評価されて良いと思うし、こんなに強烈に印象に残る映画もあまりない。でも個人的には見るのがチョットしんどかったな。医師に落ち度があり、100歩譲ってボルタクに「目には目を」の選択肢しかなかったとしても、罠を仕掛けたり、騙したり、やり方が陰湿で汚いんだもの(だから映画になるんだけど)。といいつつ、DVDをポチしてしまったよ…orz。DVDは2013年10月にツタヤのオンデマンドから発売。画面サイズは3:4、色が不自然なところもあるけど十分鑑賞に耐える画質。

(小ネタ)
松本清張『霧の旗』(61年)は、この『眼には眼を』にインスパイアされて書かれた作品。1965年山田洋次監督、橋本忍脚本、倍賞千恵子主演で映画化、1975年には西河克己監督、山口百恵&三浦友和コンビでリメイク。テレビドラマ化は数え切れないほど。スタッフからいって65年版はちょっと気になるなぁ。

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「リトルショップ・オブ・ホラーズ」  1986年  アメリカ

監督;フランク・オズ
出演;リック・モラニス,エレン・グリーン,スティーヴ・マーティン
2011年3月?日  wowow録画  自宅ごろ寝シアター

dvd

掃きだめのような町の小さな花屋。皆既日食の日、店員のシーモアは不思議な植物を手に入れた。片思いの女性店員オードリーにちなんで、この植物をオードリーUと名付けて店に飾ったのだが、それ以来、店はなぜか大繁盛。店主からその植物を枯らすなと命令されるが、それは宇宙からやってきた人喰い植物だった。きゃー!。
元ネタは1960年、ロジャー・コーマン監督のB級映画「リトルショップ・オブ・ホラーズ」。これが82年にミュージカル化されヒット。そしてこのミュージカルを映画化したのが本作。
明るく健全なノリで軽くホラー、チープで不気味かわいい雰囲気の映画。一言で言うと、裏ディズニー。物語はベタベタなB級。魅力はやっぱりキャラクターと楽曲の良さかな。登場人物のキャラクターがアニメチック、芸達者な俳優たちがそれぞれの持ち味で息を吹き込んでいく。サディストの歯医者役スティーヴ・マーティンとマゾヒストの患者ビル・マーレイ、この大物コメディアン同士のやりとりは笑えた。私はこのシーンが見られただけで満足。オードリー役のエレン・グリーンは舞台でも同じ役を務めており、舌ったらずなセリフ回しでか弱い女性を演じているけど、歌唱力は抜群。主役のリック・モラニスは、これら実力者俳優に囲まれて、いまひとつパッとしないのだが、それが何をしてもさえないという役柄にピッタリ(笑)。
楽曲はソウルっぽくてノリが良く、思わず一緒に口ずさみたくなるような楽しさ。作曲はアラン・メンケン。調べてみたら、本作で注目され、その後ディズニー映画『リトル・マーメイド』の「アンダー・ザ・シー」、『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」などをヒットさせたとのこと。最初に音楽のノリがディズニーっぽいな…っと思たのは、あながち間違いじゃなかったか。
1960年のオリジナル版は見ていないけど、キャストを見るとマゾヒスト患者役にあのジャック・ニコルソンの名前が!。そのシーンだけでも見てみたい。どっちかというとサディストのイメージだけどな。

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