「トゥルー・グリッド」  2011年  アメリカ

監督;ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン
出演;ジェフ・ブリッジズ,マット・デイモン,バリー・ペッパー,ヘイリー・スタンフェルド
2011年9月?日  Blu-ray  自宅ごろ寝シアター

dvd 14才のマティは父親を使用人チェイニーに殺され、仇を討つために、大酒飲みで腕利きの連邦保安官ルースター・コグバーンを雇う。賞金目当てのテキサス・レンジャーのラ・ビーフも加わって、チェイニーを追うことになった。
原作はチャールズ・ポーティスの同タイトル小説。アメリカでは人気小説らしい。日本でいうと藤沢周平みたいな感じか?。1969年にヘンリー・ハサウェイ監督、ジョン・ウェイン主演で『勇気ある追跡』として一度映画化されており、本作は再映画化となる(コーエンはリメイクじゃなくて再映画化であると強調しているので)。両方見たけど、私は『トゥルー・グリッド』>>>『勇気ある追跡』。物語・人物造形の深さ、叙情、映像美、深い余韻という点でコーエンの勝ち
dvd 『勇気ある追跡』はヒーロージョン・ウェインを見る映画。馬に颯爽とまたがり、口に手綱を咥え、右手はウィンチェスターをスピンコック、左手にコルトを持って悪人どもをバンバン蹴散らし、最後は少女を救って、引き止められてもニカッとはにかみ笑顔を残して去って行く。カッコイイに決まってる。しかし、物語はただ筋を追っているだけで平板、盛り上がりに欠ける。マティのキャラもつまらない。どんな場面も、誰に対しても、上から目線の優等生口調のワンパターン。強がりとも取れるけど、だんだん鬱陶しくなる(世間一般的にはマティ役キム・ダービーが可愛い、ジョン・ウェインとのやり取りが面白いという評価なので、私が若くて可愛い子に厳しいってだけかもしんないが)。ラ・ビーフにいたっては殆ど印象に残ってない。それよりすぐに殺された悪者手下がデニス・ホッパーで、悪者親玉がロバート・デュヴァルだったことの方がインパクト大。
『トゥルー・グリッド』は人間ドラマに重きを置いた西部劇。映画はマティの回想という形を取っており、コグバーンとの旅が彼女にとって人生を左右する出来事であったことが分かる。大人になることは、純粋さを失い、汚れ、強くなること。小生意気な彼女も無法地帯のインディアン居住区で、白人社会では絶対に遭遇しない残虐な殺しや死体を目の当たりにし、自身も人を撃って蛇の穴=地獄に落ちるという経験をする。冒頭で、彼女は神の慈悲以外は「代償なしに」何も得られないと言うが、復讐の代償(罰と言い換えてもいいと思う)も受け、正義の裏側も知り尽くした逞しい大人へと成長していく。
コグバーンも、ジョン・ウェイン版のようなヒーローではなく、生来のならず者である。これは町田智浩氏の解説で知ったのだが、コグバーンは南北戦争の時にクァントリル大尉とブラッディ・ビル率いる南軍ゲリラ部隊にいたという思い出話をする。この部隊は、奴隷制に反対する住民、女性子供を含む450人の民間人を虐殺したことで有名。さらに同じ部隊にいたコール・ヤンガー、フランク・ジェイムスとも行動をともにしたとも話している。彼らは南北戦争後はアメリカで強盗団として名を馳せた。つまりコグバーンは差別主義者で、無抵抗の女子供を殺すのもへっちゃら、犯罪を重ねてきた極悪人であることが分かる。コグバーンはマティと別れた後、ウェスタンショーのどさ回りで生活するが、彼が出演するショーのチラシには「コール・ヤンガー」の名が書かれている。生涯、ならず者集団から抜け出せなかったということだ。
こうしてマティとコグバーンの人物像を掘り下げると、"トゥルーグリッド"を持った二人の深い絆が浮かび上がる。マティにとってコグバーンは人生を変えた男だった、一方、コグバーンはどうしようもない悪人だけどマティにだけは誠実だった。ラスト、大人になったマティはコグバーンの遺体を引き取って、自分の家の墓に埋葬する。地獄へ落ちて当然の生涯だったコグバーンにとってそれは救いでもあるし、マティの愛の証なのだろうと思う。
これまで、コーエン兄弟は斜に構えたような、ひねくれた映画ばかり撮ってきた監督だが、本作は原作に忠実、ひねくれ感ゼロ、あまりにも正当派西部劇でビックリした。コーエンの新境地を見た感じもする。コグバーン役ジェフ・ブリッジスのやさぐれ感は半端ないし、マティ役ヘイリー・スタンフェルドも芯の強さや正義感に嫌味がなくて良かった。

『トゥルー・グリッド』予告

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