「THE 有頂天ホテル」 2005年 日本

監督;三谷幸喜 
出演;役所広司,戸田恵子,松たか子,生瀬勝久,伊藤四郎,香取慎吾,佐藤浩一,
    篠原涼子,角野卓造,原田美枝子,オダギリジョー,YOU,西田敏之 ほか 2006年8月 シネマクラブ夏祭り上映会

大晦日の夜、忙しいホテルマンたちと、ちょっと訳ありの宿泊客たち。ホテルのカウントダウンパーティまでの2時間の騒動をリアルタイム進行で描くコメディ。(蛇足だけど、↓下の『ジャッカルの日』のフレッド・ジンネマン監督は、『真昼の決闘』でリアルタイム進行を取入れた最初の監督じゃなかったかな。)
三谷幸喜は、追いつめられた人間の滑稽さを描くのが、ウディ・アレンの次ぐらいに上手い。誰が主役ともつかない複数の登場人物の個性をキラリと光らせるのも、センスの良い小ネタも上手い。本作は、そうした三谷幸喜の得意技集大成の作品という感じがした。あれだけたくさんの、バラバラに発生した追いつめられた人々のエピソードが、ちょっとずつ繋がって一つのハッピーエンドに向かっていく。そのシナリオの手腕は、さすがだなぁと思った。
俳優も旬の人ばかり。ただ、キャスティングは、オダギリジョーの筆耕係を除くと、だいたいお似合いの定番キャラクターで、板についているけど、面白味に欠ける。それと、これだけの演技派俳優を揃えているのに、役者の個性が十分に生かされず、みんな一様な演技で、舞台のようなハキハキしたセリフ回しだったことに違和感を感じた(そういう演出をしたのかもしれないけど)。特に、ホテルマンの川平慈英は、舞台の「オケピ」を見たときと全く同じ演技。舞台では良いけど、映画では見るのが苦痛。
よく知られているが、本作はエドモンド・グールディング監督『グランド・ホテル』(06.6のC-diary参照)を下敷きにしている。この本家へのオマージュも、さり気なく挿入されていて、三谷幸喜がこの映画をいかに愛しているかということが伝わってきた。スィートルームの部屋名に『グランド・ホテル』出演者の名前が付けられていたり。また『グランド・ホテル』で自信喪失のバレリーナを演じたグレタ・ガルボ。その"ガルボ"と名前の付く部屋に、ガルボそっくりのキャラ、ど演歌歌手の西田敏之が宿泊していたり。可憐なバレリーナが、恰幅のいい演歌歌手になっていたのには、笑えた。もちろん、本家『グランド・ホテル』の方が、登場人物の多様性、捌き方、結末のダイナミックな展開など水準は高い。しかし、『THE 有頂天ホテル』には、三谷幸喜にしか作れない面白さがある。そこが、三谷幸喜が好きな理由でもある。

おまけの話
シネマクラブ企画の上映だった。観客動員60名以上というクラブはじまって以来の最高記録を作った。4年前ぐらいにクラブが発足した時、上映候補に『12人の優しい日本人』が挙ったことがあった。しかし、クラブ内でも三谷幸喜を知る人が少なく、ボツになった。あの頃は、三谷幸喜は舞台をよく観る人に人気があったぐらいだった。しかし、ここ数年『笑いの大学』のヒット、NHK大河、民放ドラマ、俳優など色々な方面で活躍するようになった。私は、深夜ドラマ『やっぱり猫が好き』('80年代後半ぐらいか)からのファンである(ちょっと自慢入ってます…)。

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「ジャッカルの日」 1973年 イギリス=フランス

監督;フレッド・ジンネマン
出演;エドワード・フォックス,ミシェル・ロンダール,デルフィーヌ・セイリグ
2006年8月 シネマクラブ第48回上映会

フレデリック・フォーサイスの同名小説の映画化。フランスのドゴール大統領暗殺を引受けたジャッカル(暗号名)と、それを阻止しようとする刑事ルベルとの闘い。
ジャッカルは、冷徹に、ひたすら用意周到に暗殺の準備を進めていく。話が進むにつれ、彼が先の先まで読んで準備をしていることがだんだん分かってきて、そういうことだったのかーと何度も驚かせてくれた。彼の立ち居振る舞いから腕の立つ殺し屋であることが分かる。でも、ゴルゴ13のような、顔に"殺し屋です"と書いてあるようなダサイ殺し屋じゃなんだな。イギリス風の細身のスーツを着こなし、首にはアスコットタイ(これがまた似合う!)。車はアルファロメオ、ジュリエッタスパイダーだ。目的のためには、甘い笑顔で、女はもちろん、男も(^_^;)利用する。どんなに追いつめられても、彼は焦ったり、自分の感情を一切表に出すことはない。どこまでも冷徹だ。ジャッカルに殺し屋のカッコよさが集約されている。ジャッカルに注目が集まるのは仕方がない。
でも。私はルベル派だ。こういう刑事、大好きである。ルベルはジャッカルとは正反対だ。服装もよれよれ、一見モサッとしている。ジャッカルの暗殺準備が無駄がないのに対して、ルベルの捜査は泥くさい。何万人もの名簿を一人一人当ったり、膨大な資料の山から、小さな真実の糸口をみつけていく。自分も仕事で、半ば狂いそうになりながら、そういう作業をすることがあるので、その泥くささに共感してしまう。しかし、99%が無駄になるような地道な捜査が、確実にジャッカルの選択肢を狭めていく。これはこれで、格好いいと思う。
スマートに捜査をかわすジャッカルと、じわじわ追いつめるルベル。もの凄い緊迫感だ。一瞬の緩みもない。特にラストは、一部、実写映像を使用したことにより、ドキュメンタリーを観ているような感覚に陥らせ、緊迫感が最高潮に達する。
不満を一つ言えば、ジャッカルの正体が分からないというあのオチは蛇足だと思う。あのオチがなくても、ジャッカルは、自分の正体につながる証拠を残すようなヘマは決してしないわけで、どっちみち謎の男なわけだから。
私の好きな女優、デルフィーヌ・セイリグのマダムっぷりも良かったな。あの品の良い衣装はやっぱりシャネルだったのかしら?。(『去年マリエンバードで』。私は観ていないけど、この映画では、彼女のシャネルファッションが話題になった。)

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