「ザ・マジックアワー」 2008年年 日本
監督・脚本;三谷幸喜
出演;佐藤浩市,妻夫木聡,深津絵里,西田敏行,綾瀬はるか他
2011年6月?日 DVD 自宅ごろ寝シアター
港町守加護(すかご)。天塩商会ボスの愛人マリに手を出してしまった備後は、命を助けてもらう代わりに伝説の殺し屋デラ富樫を連れてくることを約束する。デラ富樫を見つけられない備後は、仕方なく、売れない役者の村田を映画撮影と騙して、デラ富樫に仕立てるが…。
「街全体がセットみたい」という綾瀬はるかのセリフ通り、街はすべてセットで作り物感全開。良い感じに寂れたありそうでなさそうな街で、まるで大きな箱庭。監督の愛する古き良きハリウッド映画のような雰囲気の作品が撮りたかったんだろう。だからギャングとか殺し屋とか日本ではあり得ない話が出てくることになっちゃうんだけど、こんな素敵な箱庭のなかなら、すんなり嘘の世界へ入って楽しむことができる。これは三谷映画全般に言えるんだけど、実現したい世界、脚本の面白さのためなら、作り物感、大げさ感、リアリティのなさもオッケーな舞台要素があって、本作はこの舞台要素が特に強く出た映画だと思う。
脚本家の作った映画だなぁと思う。悪い意味じゃなくて。画作りやカット割りは平凡、映像の力で語る場面もない。が、それを補って余りあるほど、登場人物のキャラクターの魅力、セリフ、全体のストーリーが面白い。窮地に陥った人(本作では備後ちゃん)の慌てふためきっぷりの可笑しさは三谷監督の定番。それに加えて、本作では、ホンモノ本気のギャングたちと、デラ富樫を演じている村田との噛み合ってないんだけど、無理やり噛み合わせてしまう、そのやりとりがいちいち面白かったな。
三谷幸喜の映画愛をたっぷーりと詰め込んだ映画でもある。映画のパクリ、オマージュはもうそこかしこ。天塩商会のボス西田敏行は「ゴッドファーザー」マーロン・ブランドを意識した演出だし、劇中劇「暗黒街の用心棒」は「カサブランカ」雰囲気そのまま、同じく劇中劇「黒い101人の女」では「黒い10人の女」の市川崑監督がカメオ出演、マリちゃんの三日月ブランコのステージ&歌「I'm foever blowing bubbles」はおそらくウディ・アレン「ギター弾きの恋」から、「アンタッチャブル」「ミラーズ・クロッシング」からパクったと思われるカットなどなど。それだけじゃない、もっと素敵なのは、映画の魅力に取り付かれた人たちを愛情込めて描いていること。「暗黒街の用心棒」の主人公に憧れ俳優を諦められない村田、俳優人生パッとしなかったけど老いてもマジックアワーを待つ高瀬、偽監督を演じているうちに俳優の演技の力に感動する備後、いつの間にか偽映画撮影にノリノリになっていく赤い靴の従業員たち、村田を慕う映画スタッフたち…。映画への憧れ、映画が見せてくれる夢が伝わってくる。その意味では、この映画は三谷幸喜的「カイロの紫のバラ」なのかも。
佐藤浩市がこんな面白い演技ができる役者だとは思わなかったな。日本のジョージ・クルーニーって感じのイメージがあったから。熱くて大げさな芝居も良かったし、ナイフなめも笑えたし、ダサい衣装もなかなか素敵に着こなしてたよ。