「一命」 2011年 日本
監督;三池崇史
出演;市川海老蔵,瑛太,満島ひかり,役所広司
2011年10月?日 TOHOシネマズ
浪人が溢れた天下太平の世。困窮した浪人たちが、大名家に「切腹のために庭先を借りたい」と申し出て、迷惑がる屋敷の者から金銭を恵んでもらう狂言切腹が流行った。ある日、井伊家に浪人津雲半四郎が切腹したいと申し出た。井伊家の家老は、数ヶ月前、同じように井伊家での切腹を申し出た千々岩求女の顛末について語り始めた。日本映画の宝というべき傑作小林正樹『切腹』(1962年)のリメイク(←クリックすると小林版『切腹』の感想ページへ。6年前に書いたので文章が下手くそだわ)。
どうしてもオリジナルと比べてしまうが…。オリジナルとの大きな違いは、浪人家族の悲しみと惨苦、家族愛を強調したこと。この部分は悪くないと思う。瑛太の切腹シーンもオリジナルを超える。そのため、半四郎の復讐動機は、情け容赦なく家族を死に追いやった者への憎しみという面が強調され、武士の面目、封建体制権力への批判という面は相対的に弱まった。『切腹』が作られた1960年頃とは違って、武士道なんて言われてもピンとこなくなった時代、今の人たちが共感しやすいように変えるのは「あり」だと思う。
本作をつまらなくした決定打はラストシーン。なぜ半四郎に「アレ」を持たせた?(「アレ」はネタバレになるので秘密)。監督の意図がよく分からない。武士の面目を批判する者として、その象徴である刀を捨てたということか?、彼らの面目を潰せば復讐を果たしたことになるので、命まで奪う必要なしということか?。それにしても、あんな甘っちょろい復讐では、彼が「一命」をかけて井伊家に分からせたかったこと、彼の恨みや怒りがまるで伝わってこないではないか。復讐に格好良さなんかいらん。善良な人間の礼儀正しい復讐、格好良くて美しい死は、結局は武士の面目を肯定することにもなって、テーマにもブレが生じるような気がする。あれじゃ、ただの海老蔵のカッコイイ見せ場じゃん。
キャスティングも微妙。海老蔵=半四郎が、辛酸をなめつくした苦労人にはとても見えなかったの。逆に、井伊家家老=役所広司は、声色やセリフまわしが穏やかで、悪人オーラが弱い。瑛太と満島ひかりは、初々しくて、健気で、とても良かった。
悲しいが、今となってはよほどの映画好きでなければ『切腹』は見ないだろう。以前、映画好きの若者にこのDVDを貸そうとしたら「タイトルが暗いっす」の一言で断られたことがある…orz。若者にも知名度が高い三池監督。リメイクで『一命』とともに『切腹』が若い世代にも知られることになるなら、それはそれでうれしいことだ。付け加えておくと、時代劇初の3Dという宣伝だったが、私は2Dで鑑賞。
小林正樹『切腹』予告
三池崇史『一命』予告